テラ・ファーマ

 僕が住んでいる家のすぐ近くには、彼方まで延びる道がある。それは本当にまっすぐで、地面が湾曲して見えなくなってしまう所まで続いているんじゃないかと思えるくらいだ。
 道幅は腕のいい運転手を乗せた軽自動車なら何とかすれ違える程度の狭さ。少なくともうちの近所は全然舗装されてなくて、明るい色の土が心地よさそうに横たわっている。いつだったかトラックがひっくり返って以来、時々みんなが集まって目につく砂利を取ってしまうようにしたから、そこら辺のアスファルト道路よりは具合が良いと思う。
 晴れた日にその道を通る時、僕は地面を軽くなでてやる。それから表面の砂を手ですくい、脇に広がる畑へ吹き流す。砂はいつ触れてもさらりと優しい音を立てて僕の手になじんでくれる。粒子が小さくて含有水分が少ないから。いや違う、多分そういうことじゃない。よく分からないけれど。
 道を車が通ることは少ない。僕は毎日のようにその道を使っているけれど、せいぜい三日に一遍トラックが追い越して行くだけだ。そのトラックだって何度も会った事のあるやつだったりするから、利用している車なんて本当にたかがしれているんだろう。
 そう言えば、町中を走る道で舗装されていないものは他にない。どこも遥か昔に頼りがいのあるアスファルトに覆い尽くされてしまっている。それでもその道と交わっている所だけは土がむき出しになったままで、交差点らしからぬ雰囲気を漂わせる。都会から来た人がそれを見て苦笑していた。僕にとってはただ道が続いているという事だけど、彼にとってはアスファルトの欠落にしか見えなかったらしい。
 道の周りを占める畑は半分近くがもう使われていなくて、残った半分も商売っ気はないように見える。高校を卒業した人たちは大体違う町へ出て行くし、自治体やどこかの企業が再開発をする話も全く聞こえてこない。道を取り巻くものは緩やかに死へと向かう老人のようだ。

 ある晩、夢を見た。
 空は色の無い雲が一面に貼り付いていて、そんな中僕は道の真ん中に立って地平線を見定めようとしている。あまりに遠くまで道が延びていて地平線が分からないのだ。もしかすると道はどこかで終わっていて、鉄筋の建物が邪魔をしているんじゃないだろうか。
 じっと目を凝らして道の先を見続けていると、世界の境界線がぼやけてくる。どこまでが空気なのか分からなくなってくる。僕は目をこすって再び地平線の辺りを見る。すると木々や建物や畑の凹凸は消えていて、視界は道と雲で二分されるだけになっている。いまや道は地平線の下を余すところなく埋めている。それは大地そのものなのだ。
 僕は試しに大地をなでて、砂をすくい上げてみる。いつもと変わらない優しさだ。僕がそれを感じた次の瞬間、突風が砂を巻き上げてどこかへ運んで行った。そして僕は、再び感覚のない闇へ。

 次の日も道はそこに横たわっていた。相変わらず車は通らないし舗装もされていないが、それでもみんなは砂利の始末を欠かさないだろうし、道を忘れることもない。
 僕は道の彼方に目をやった。まっすぐ延びたその向こうに見えない地平線が見える。そこまで続く土の感覚が分かる。僕は道に手を当てた。迷いはない。これは大地だ。


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