とても大きな教会堂である。
私が寄りかかっている柱は大人が十人腕を伸ばしてやっと一回りできるほどの太さがある。もちろん飾り柱ということもあるが、芯の部分だけでもこの半分以上はあるだろう。実に太く、そして長い柱である。入口から祭壇までは軽く二百歩ほどの距離があり、その祭壇も階段を数十段上がった高さに据えられている。
見上げれば、地上にいるはずの私がどこかへ落ちて行きそうなほどの高さでヴォールトが交錯している。リブと共に柔和な曲線を描くそれらの間は五色のステンドグラス。太陽の光は全てあの薄いフィルターを通って屈折し、中和されて身廊の中央へ届けられる。ステンドグラスから床へと伸びる光の直線は、最も日の高い季節で百メートルほどだという。
私はその完璧とも言える道に引き込まれるように、椅子の間を抜けて身廊の中央へ歩き出す。革靴の踵がむき出しの床を叩いて甲高い響きを上げる。
三歩目で一度足を止めた。すると三つの音が柱に、壁に、ステンドグラスに反響して無機質な和音に変わる。そのかすかにずれた響きは私の一歩が唯一無二であることを教えてくれるようだ。
反響が止むと私は再び歩き出し、誰もいない教会堂に革靴のパーカッションが打ち鳴らされる。一歩ごとに重ねられて行く音は、それでも室内を満たすには至らない。祭壇の裏、側廊の陰、ヴォールトの交叉点。満遍なく行き渡るはずの音階は、しかし全てを捉えるに足るものではない。それほどまでに教会堂は雄大だ。
私が身廊のちょうど中央、光の到達点に辿り着くと、尖塔の頂上にある鐘楼で鐘が鳴り始めた。時というよりは鐘の存在を知らしめるためといった荘厳な音色で鐘は二度三度と打ち鳴らされる。祭壇右の尖塔に続いて左からも、かすかにくすんだような鐘の音。二つの鐘は争うでもなく手を繋ぐでもなく、それぞれが司教ででもあるかのように大仰な身振りをして、私の胸に金属音を流し込む。
知らず知らず涙を流しながら眩しく輝くステンドグラスを見上げていると、その一部にひびが入る。ひびは一つから三つ、いつの間にやら数えきれなくなり、やがてステンドグラスを細やかなモザイク模様へと変えて行く。
そして二つの鐘が一際大きく鳴り響いたかと思うと彼らは一斉にその姿を崩し、ざあっと音を立てながら身廊目がけて落下を始める。遥か上空で陽光が千々に弾け飛ぶ。割れ砕けたガラスはあまりに小さく、巨大過ぎる教会堂と相まって私の視界に美しい雹のように映り込む。
間もなくステンドグラスだった欠片達は私の身体に降り掛かる。私は気付けば血にまみれ、微笑みながら身廊に寝転がる。
後書き
何を申し上げて良いやら。書けない時でも書いてみようのコーナーでした。
最後まで読んでくれてありがとう